同じ色のぷよぷよを4つ繋げることによって消していくパズルゲーム「ぷよぷよ」。1991年に株式会社コンパイルから発売されてから、29年が経ち、eスポーツとして今なお愛され続ける名作だ。
そんな「ぷよぷよ」初の女性プロゲーマーTemaさんに、ご自身の経験や最近のぷよぷよ事情を伺った。

5歳、母と共同で初めて全クリした「すーぱーぷよぷよ」
――最初にゲームをプレイされたのは、いつ頃のどんなゲームでしたか?
5歳くらいのときに、「すーぱーぷよぷよ」をやりました。なんで買ってもらったのかよく覚えていないのですが、最初に買ってもらいましたね。
――実際にプレイされたときのことを覚えていますか?
実は結構印象に残っているんです。ウィッチっていう女の子の魔女のキャラクターなるんですけど、私はその子が倒せなくて苦戦していたんですね。母はその一個先のぞう大魔王にすごい苦戦していて。あるときに、母が仕事行ってからぷよぷよを始めて、帰ってくるまでやっていたことがあって。少なくとも6時間くらい。怒られるかなと思ったんですけど、なぜかあまり怒られなくて。共同で初めて全クリしたのを覚えています。
――それが強烈に印象に残っているんですね。
当時は母もゲーマーで、私が幼稚園に行くために下の階に降りたら、母がカービーボールやっていたのは衝撃的でした(笑)
――ありましたね、カービーボール!私もド世代です。それからぷよぷよにハマって、ずっとプレイされていたのですか?
結構浮気性なんですよ。普通にポケモンマスターを目指しに行ったり。FF、ドラクエをやったり。でもなぜか、最後にはぷよぷよに戻ってきますね。
――昔はオンライン対戦ってなかったですよね。
オフラインだけなので、友だちと一緒にゲームしてました。オンラインが始まったのは、高校くらいです。なんとなく好きでやっていたんですけど、対戦にハマり込んだのはその時です。世界はこんな強い人たちがいっぱいいるんだと思いました。
中学生、お小遣いを貯めて出場したぷよぷよ大会で後のライバルに出会う
――ぜんぜん違うんですか、実力というか。
違います。中学生の頃に、はじめてぷよぷよの大会に行ったんですよ。お小遣いを貯めて、片道3時間くらいかけて。友だちの中では一番強かったんですけど、ボコボコにされちゃって。そのときに強い人がいるっていうのはわかっていたんですけど、オンラインには本当にゴロゴロいるんだなって(笑)
――そのときに学んだことが、今でも技として活きてくるものなんですか。
たぶんそれは、正拳突きのようなものです。今の実力に直結しているわけではないですけど、それができないとどうしようもなかったんだろうなと思います。ぷよぷよって、友だちの中で負け知らずになる基準と、オンラインでちょっと強くなる差がありすぎるんです。
――ぷよぷよで強くなるためには、どういう段階を踏んでいけばいいのですか。
「階段積み」5連鎖を覚えて、「鍵詰み」6連鎖、「折り返し」、それを合体させた「NOV式」というのもあります。その次に、「GTR」を覚えます。「GTR」で10連鎖ができて、「NOV式」でも12連鎖ができて、ようやくオンラインデビューができるレベルなんですけ。ただそれだとものすごく道のりが長いゲームになってしまうので、早いのはライバルを作ることです。この人に負けないぞと思うと、自然と上達すると思います。
――Temaさんのライバルはどんな方だったんですか。
この人は倒したいという「倒すリスト」があります。それが上達の一つのモチベーションになっています。それぞれライバルにする理由がちゃんとあって。例えば、「倒すリスト」1人目は、中学生のときに出たぷよぷよ大会の優勝者なんです。その後に、オンラインで対戦することになって、私の配信のリスナーにもなってくれています。たまに対戦してくれるんですよ。
――いまでも交流があるんですね。
たまたま交流ができてビックリなんですけど。その人が、今30対25とかで倒せていないです。もう少しで倒せる気がするんですけど。まだちょっと壁があるんですね。
――その方は中学生のときに対戦したことは覚えているんですか。
覚えていないみたいです。大会があったことはうっすら覚えているそうですが。
――Temaさんは、その「倒すリスト」の方々を倒すべく日々鍛錬されているのですか。
そうですね。ただ、プロとして活動していると、いろんな理由が出てきてしまうんですね。高校の頃にオンラインで対戦していたころは、友だちの誰々より強くなりたいとか、憧れのプレイヤーと対戦したときに褒めてもらえるくらい強くなりたいとか。ミクロな理由だったんですけど、今は単純にそれだけではなくて、ファンの方に喜んでいただきたいとか、スポンサーさまの期待に応えるたいという気持ちがあります。
数々の大会で好成績を収め、ラスベガスの大会で王者に
――印象に残っている大会、イベントはありますか。
「eスポーツ MaX」というテレビ番組で行われたぷよぷよ大会で、男女合わせてベスト8になれたんです。その少し前に、同じ番組で一度対戦したことがあるのですが、一度引退したあとの復帰直後でボコボコにされたんですよ。悔しくて半年間くらい練習したときにあったのがその大会で、ベスト8になれて。まだ戦えるなと感じたんです。自分の実力が、まだぷよぷよ界で活躍できるかもしれないと感じました。
――実力を確認できたわけですね。
それから、2016年の「セガフェス」で3位になりました。その大会がきっかけで、プロライセンスの推薦に選ばれたのだと思います。今は数ヶ月に一回大会があるんですけど、ぷよぷよの公式大会って頻繁にはなかったんです。そのセガさんが数年ぶりに公式大会を開いてくださって。それがしかもセガフェスという大きな場所で。そこで3位になれたのは印象的でした。
――そのあとですね。AnimEVOでぷよぷよテトリスでダブルス優勝されました。
海外でぷよぷよの大会があると知って、珍しいなと思ったんです。ぷよぷよの大会は国内中心だったので。あめみやたいようさんとペアを組んで出場して、優勝することができました。
――国内と海外は違うんですか、大会の雰囲気など。
規模は違いますね。賞金が大きかったり。EVOに関しては、マンダレイ・ベイというラスベガスでも一流のホテルで行われて、観戦にはチケットが必要です。ネットで視聴できるのに、入場料を払って見に行くんです。
――日本にはない光景かもしれませんね。
ただ最近は、日本での盛り上がりも感じています。大会の回数が増えたり、規模が大きくなっていったり。ぷよぷよはイベントがすごい増えましたね。今は開催できない状態が続いていますけど、去年までは毎週のように地方でのイベントがありました。
――どういったイベントが多いんですか。
大会の実況解説もありますし、プロゲーマーと対戦ができる、みたいな企画もあります。子どもたちの職業体験のブースもありました。横のブースが警察官と自衛隊だったんですよ。
――すごい絵ですね(笑)子どもたちのなりたい職業でも上位ですもんね、今。
ぷよぷよで女性初のプロゲーマーに認定
――2018年4月に一般社団法人日本eスポーツ連合(以下、JeSU)にプロ認定されましたが、心境はいかがでしたか。
ぷよぷよのeスポーツ化って前から望んでいたことなんです。国内のeスポーツの歴史を見ると、ストリートファイターとか他のゲームで先にプロゲーマーが生まれていました。自分が憧れているプレイヤーたちと一緒にいろんな活動
がしたいと、ずっと夢でした。ぷよぷよでもそれができるようになったことが、本当に嬉しかったですね。
――プロ認定されてから変化はありますか?
がらっと変わりました。eスポーツ化したことで、まず大会が増えました。それから、スポンサーさまにも支援いただいています。私は2019年から鹿児島のル・プレジールさんという洋菓子屋さんに支援いただいて、ユアパワーというお菓子のPRをしています。ネットギアジャパンさんにも支援いただいています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、イベントが次々中止に
――最近、イベントが延期、中止になっています。eスポーツ界やプロゲーマーさんへの影響はありますか。
とても大きいです。新型コロナウイルスのニュースが報道されて以降、お仕事の問い合わせがなくなりました。自粛が叫ばれるよりずっと早くです。ぷよぷよカップも、例年なら4月には年間の優勝者を決めるファイナルがあったのですが、それも延期に。他のeスポーツもみんなそうですね。
――eスポーツは、オンラインでできる強みがあるとも言いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
オンライン大会の開催には、実況解説者やMC、配信などのテクニカルスタッフさんが必要になるんですね。何かしら人が集まってしまうので、オンライン大会すら大規模なものはできていない印象です。
――そんななか、先日ネットギアジャパンさんのショールルームでYouTube配信されましたよね。どのような想いで?
ネットギアジャパンさんとのお付き合いも2年目になるので、新しい企画をやりたいという想いがありました。ネットギアジャパンさんのショールームは、配信ができる環境がすべて揃っていたので、2年目を機に配信しようということに。
――実際に配信されていかがでしたか。
やってよかったと思っています。大会以外では、プロ同士が集まることってあまりないんです。本当は仲良いんですよ、みんな。
――これからやってみたい企画はありますか。
なるべく配信や動画編集には力を入れようと思っています。つい昨日はバイオハザードを10時間配信しました。
――全部ではないですけど、私も見ていました。
朝までやっていました。朝というか、昼まで(笑)
プロとして
――お話を伺っていると、ゲームが強くなりたい、勝ちたいという想いのほかに、ファンやスポンサーの方に喜んでほしいという想いを感じました。
地方のイベントなどは、地元のPRをしたいという想いがあるので、期待に応えたいなと思います。現地で配信とかするんですよ、私。仕事終わった後に、観光配信したり、それが楽しみの場になっています。地方のイベントだと、普段言わないことも言ったりして。
――例えばどのような。
会場の方から、「女性プロが増えたら困りますか」という質問をいただいたことがありました。ぷよぷよカップという大会は、ベスト4に入れたらプロになれるんですね。「男女平等の条件で勝ち上がったなら、その人は祝福するべきだと思います」と答えました。女性と男性でプロの難易度が違うのは反対です。男女平等というのがeスポーツの魅力だと思うので、プロになる条件を手にした人は、素直に応援したいし、おめでとうと言いたいなと思います。
――これからプロになりたい方がたくさん出てくると思うのですが、まず何から始めたらいいでしょうか。
まず普通の勉強とスポーツと趣味を持つことです。私は、プロになりたいからと学校をやめたり、ゲームしかやらないというのは反対なんです。プロゲーマーがゴールであってはいけない。どんなプロになりたいかというのがあって、そこにたどり着くことがゴールだと思うんです。仮に特定のゲームでトップになったとしても、王者は必ず終わります。プロとしてやり抜く場合は、トップであり続けるか、代わりのものを手に入れるか。他に自分が誇れるものを持っていた方が、活動に深みが持てると思います。プロゲーマーになるために、何かを削る必要はない。結果的に削れていってしまうんですけど、自分の意思で、例えば学校をやめるとか、それは間違っています。お菓子作りが趣味だったら、それをやめる必要はないんです。プロゲーマーになったときに、パティシエプロゲーマーって言ったらいいんです。
――Temaさんの目標はなんですか。
ぷよぷよ初のプロになって、スポンサーさまに支援いただいたのも初なんですね。芸能事務所に入ったのも初。これからも一番であり続けて、皆さんと一緒に新しい道を切り拓いて、ぷよぷよのプロといったらTemaさんって言われるのが目標です。
――ありがとうございました。
プロゲーマーになるためには、強くなければいけない。ただし、それだけでは不十分なのかもしれない。例えば、地味で卑怯な戦略で勝ち続けるプレイヤーを、誰が応援するだろうか。人を魅了するためのプレイ、言動、ファンサービス、そういったものが、プロゲーマーには必要なのだと、Temaさんの言葉から感じた。
編集長コノ